男心と秋の夜
10月、夜。 俺らは、高校最後の文化祭の打ち上げをしていた。 会場は小さな店を貸し切って――といっても、酒は一切ナシ。 何たって府警本部のお偉いさんの子息と令嬢がおるからなあ……やつらがおらんくても、受験を控えたこんな時期にバレて停学や何やとゴタゴタに巻き込まれたらかなわんし。 真面目なもんやろ?
その子息&令嬢は、というと、いつもは一緒やのに、今日は別々に友達と楽しんどるみたいや。 まあ、クラス行事やしな。 毎日ひっついとるんやから、こんなときくらいはそれぞれの友達と過ごすか。 何となく服部と遠山を見とると、服部がすっ、と動いた。 俺の近くにおる、遠山に近づく。 「おい、和葉。お前、もう眠たいんか? 帰るか?」 は? 遠山、普通に女子たちと喋っとったぞ? 案の定、遠山は「そんなことないよ」って反論しとる。 「何言うてんねん、さっきからそんなとろーんとした目ぇしとるくせに。しゃべりのスピードも落ちてんで」 「けど……二次会のカラオケ行くって約束したもん」 あれ、これって肯定の返事やんな。え、遠山、全然普通やん? いつもと一緒に見えるけど。 服部は軽く息を吐くと、遠山の頭にそっと手を置いて、自分の方に傾けた。 「ほんならちょお寝とけ。おっちゃんには遅なるって言うてあんねやろな?」 「うん。平次と一緒に帰るか、ばらばらになったら電話してこいって言われた」 「おっちゃん呼ばせたら、オレがオカンにしばかれるわ」 そんな会話をしながらも、遠山の体は抵抗することなく、服部へ沈んでいく。 遠山の頭が、服部の膝におさまった。 俺らには背中を向けとるから遠山の表情はわからんけど――大きく上下する肩を見ると、寝入ったのがわかる。 ――寝んの早っ! いや、それ以前に……。 「おい服部、お前らいっつもそんなんなんか?」 「は? 何がや?」 きょとんとして、俺を見る服部。 何がってお前……。 俺は、もうそれ以上ツッコむことができんかった。 やって、そうやろー。 そばにおった俺が遠山の様子に気づくことできんかったし、それは長年一緒におるからわかるのかもしれんけど、オトシゴロの男女がこんな人前で堂々と膝枕て! しかも遠山、気持ちよさそーに寝とるし。 それにやで? 服部はあぐらかいとるから、その、服部の×××の辺りに遠山の顔があるわけで……服部は平気なんかいな。 そんなん、もう恋人越して、熟年夫婦やん! 俺が悶々と考えとると、遠山が身じろぎして、服部の腰に両手を回した。 服部、遠山の背中をゆっくり叩いてんのも――無意識なんやろうなぁ……。
あーあ、やっぱ、2人の間に入る隙間はナシ、か。 ホンマのホンマは幼馴染やったら、とか淡い期待も抱いてたんやけどなー。 けどまあ、この2人やったら諦めもつくわ。 俺かて改方や。 テニス部でレギュラー張っとったし、成績も悪ない。 あんまり人には言うてないけど、実は推薦で私大の内定もうとるし。 自分で言うのもナンやけど、けっこうモテんねんで? これからクリスマスにバレンタイン、イベントが目白押しやしな。
そっちに期待しよー。
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