約束と逆襲
いつの頃からだっただろう。 平次はアタシを事件調査に連れていかなくなった。 犯罪が凶悪化していて以前よりも危険だから、というのが平次の言い分で、言うことを聞くアタシじゃないけど、「いつか足手まといになる」とまで言われては引き下がるしかなかった。
代わりに、アタシが出した条件。 帰ってきたその日は必ずアタシと過ごすこと。
今、平次はその約束を実行中だ。
――シーツのこすれる音がする。 平次が帰ってきたのは深夜で、アタシはベッドの中にいた。 部屋に入るなりベッドに潜り込んできて、平次はアタシを抱きしめてキスをした。
アタシは必死に声を噛み殺す。 今日はお父ちゃんも非番やったし、お母ちゃんも階下にいるから平次の気配がバレたら大変だ。
平次はそんなアタシを楽しそうに見ていて、時にはわざと声を挙げさせようとしていたけれど、繋がった途端に眉根を寄せた。
静かに律動を繰り返しながら、アタシに囁く。 「お前――誰かに仕込まれたんちゃうやろな?」
……失礼な。アンタ以外の誰の前で足を開くんやっちゅーの。 けれどアタシはそんなことは言わない。
「さあ? そんな心配するなら、ずっと見張っとったらエエやん」
平次は片眉を上げた。 「言うやないか」
言うと同時に大きくスイングした。
「……っ」 今度は、アタシが眉を寄せる。かろうじて、声を挙げるのは我慢できた。
良かった、と思うのも束の間、平次がアタシを責め立てる。
「オレがその気になったら、お前を閉じ込めとくなんてワケないんやぞ。下手なこと言うて、後悔すんなや」
――後悔なんかしぃひんよ。 アタシを閉じ込める? 上等やないの。喜んで捕らわれるわ。
けど、そんなことは言ったらん。
本心を隠して、鼻で笑う。 「できるもんならやってみ」
「言うたな」 「言うたよ」
――その後のことは覚えてない。気づいたら朝になっていた。
……夢?
寝ぼけた頭で思ったけれど、シーツには愛し合った跡がいくつもあって、人には見せられないアザがカラダ中に――。
何かが手に触れて、カサリ、と音を立てる。 見るとメモが残されていた。
「覚えとけよ」 アタシはちょっと笑って、その殴り書きに唇を寄せた。
|