ステップアップ
想いが通じ合って2ヶ月。 碓氷が近づいても、美咲は体を強張らせることはなくなった。 そっと唇を合わせて離れると、ほんのり頬を染めて含羞む。
殺人的に可愛い。
日常は相変わらずでつれなくされることもあるが、目を見つめて顔を近づけると期待を浮かべた顔で自分を受け入れてくれる。
怖いくらいに嬉しい日々だが、最近、碓氷は疑問に思うことがあった。
「鮎沢。何で最近、キスの途中で目ぇ開けるの?」 美咲の腰に手を回したままで聞いてみる。
「えー、あ、いや。……やっぱ、バレてた?」 「バレてるよ。何で?」
美咲は頬をかいて視線を彷徨わせる。 あー、とかうー、とか言っている間、視線を外さずにずっと見ていると、観念したのか、その手が碓氷の腕をつかんだ。
「いや、だって……さ、その、何だ。碓氷が……をするのって、私だけなんだろ? だったら、その顔が見られるのも私だけってことじゃないか。 その特権を見ないのはもったいないなあって……思ったんだが……」
思わず瞠目した碓氷を見て、美咲は「やっぱ、ヘンかな?」と言って笑った。
「ごめん、嫌ならもうしないか、らっ」 碓氷は美咲を強く抱きしめた。
「じゃあもしかして、『みんなの前でキスするな』っていうのも……」 「……そうだな。 もちろん恥ずかしいし、道徳的にどうなのかっていうのもあるが、やっぱり……の時の碓氷の顔を他の人に見られたくなっていうのも、ある」
「わかった。そういう理由なら、もう人前で迫ったりしない。俺も、鮎沢の『そーゆ顔』、他のヤツに見せたくないし」 「そりゃ良かった……って、お前なあ! そもそも人前ですることが間違っとるだろうが! そんなことを改めて言うな! ……ていうか、痛い! いつまで抱きついてんだ。いい加減、離せ!」
「嫌だ」 「嫌だじゃない。はーなーせーっ!」
本当に本当に美咲はズルい。 そんな可愛い顔で、そんな可愛いことを言う。
――けれど。 それはそれで、不満もある。
「へー。余裕あるんだ。じゃー、次のステップへいってみよー」 がらりと口調を変えて、一本調子で言ってみる。
「次……?」 ぎくりと顔を上げた美咲に、再び口づける。 ――深く、深く。
唇を割って、中へと侵入する。 柔らかい舌を捕らえると、美咲が途端に硬直した。
碓氷をつかむ美咲の手に力がこもった。 うっすら目を開けると、眉間にしわを寄せて真っ赤になっている美咲の顔が目に入る。
――やっぱり、こうでなくちゃ。
気を良くした碓氷が高ぶるテンションのまま美咲の口内を味わっていると、腕に負荷を感じた。
美咲を見ると、力が抜けてくったりとしている。 慌てて抱きかかえ、ゆっくりと床に座らせた。
これ以上ないほど顔を赤らめて目には涙さえ浮かべて睨む様は、何とも言えず碓氷のツボにハマってしまう。
「そんなにヨかった? ミサちゃん♪」 「あ……アホ碓氷っ」 けれど、腰さえ立たないような有様では何の迫力もない。
「もー、困るなあ。 このぐらいでそんなになるんじゃ、×××の時なんか△△△しただけで◎◎◎しちゃって大変なんじゃない?」
ぼんっ、と、美咲の頭からきのこ雲が出たような気がした。
「なっ………! うっ、碓氷の変態宇宙人〜〜〜〜〜っ!!!」
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