お留守番前
「はっ……、あ……っ」
蒸し暑い部屋に、荒い息遣いだけが響く。
「せ……っ、ちょっと待っ……」
先生がヘンだ。
いつもはもっと優しくしてくれるのに、今日は容赦ない。
私が息も絶え絶えに訴えても、先生はその手を緩めてくれない。
「や……っ、もう……っ」
「――まだだよ」
「……っ。せんせ……っ」
「……文乃さん、大丈夫?」
先生が、冷たいタオルで顔や体を拭いてくれる。
私はぼんやりと目を開けて、先生を睨んだ。
時計は夜中2時を指している。
「大丈夫なわけないでしょっ。ほらもう2時じゃん! 先生こそ、明日はいつもより早いんでしょーがっ」
「あー、行きたくないなぁ〜」
そんな駄々っ子のようなことを言って、先生は私に抱きついた。
明日から、先生は3日間留守にする。
臨海合宿の引率なのだ。
「何でよ。あたしみたいな問題児、今のクラスにはいないんでしょ?」
「問題児はいなくても、文乃さんがいない」
「なっ……」
私は赤くなった。
真顔で何言ってんの!
「寂しいな〜心配だな〜」
先生はぐずぐず言いながら私の肩口に顔をぐりぐりしてくる。
「やっぱり、まだ足りない。もう1回、いい?」
「いいわけあるかっ!」
ばしっと先生の頭を叩いた。
「もう寝なって。――ちょっと」
そう言う間にも、先生は体中にキスの雨を降らせる。
「先生、そんなにしたら跡ついちゃうよ」
「いいじゃないですか、夏休みなんだし」
「困るって。鉄兵に何て言ったらいいのよ」
「今さらですよ。――それより」
先生は私を抱きしめる腕に力を込めた。
「僕が留守にするっていうのに、文乃さんは平気そうですね?」
にーっこり聞いてくる、その笑顔がコワイよ!
「へ、平気じゃないよ。あたしだって寂しいけど……でも、仕方ないじゃん。お仕事なんだし」
私はそっぽを向いて答えた。
――そうだよ。平気なわけない。
先生が私の知らない所で水着姿の女子生徒に囲まれて、私の知らない女の子たちが先生の水着姿を見るなんて。
先生が意外に逞しいことや、肌がキレイなことなんて、私だけが知っていればいいことなのに。
思わず、先生の背中に手を回した。
本当は行って欲しくない。けど、それは言えないから。
「文乃さんも僕につけて。3日間消えない跡――」
「ん……っ」
私は促されるまま、夢中で先生の肌に唇をつけた。
「ん……先生?」
「あ、起こしちゃいましたか?」
ふと目を開けると、先生がバッグを手に立ち上がるところだった。
見送りするために起き上がろうとするのを、先生はやんわりと止める。
「そのまま、寝てて。――行ってきます」
「行ってらっしゃい」
先生は私のまぶたにキスをして、部屋を出て行った。
……先生、ちょっとは寝たのかな。目の下のクマ、すごかった……。
そんなことを考えながら、私は再び眠りに落ちていった――。
□あとがき□
たった3日ごときで……(笑)。
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