明智警視の企み
「はあ、なるほど……」 「今日だってそうですよ! どうせ遅刻するんだから迎えに行ってあげるって言ってるのに、わざわざ待ち合わせにして! それで結果はこれですよ!」 美雪はテーブルをドン! と叩いた。 「今日は何分待たされたんでしたっけ?」 「1時間です!」 「で、私と会って20分ほど経過しているから……1時間20分。そしてまだ現れる気配はない、か」 とあるオープンカフェ。 明智は美雪の愚痴を聞いていた。 美雪の話によると、2人で映画を観ようと待ち合わせた……のだが、案の定、はじめは1時間経ってもやってこない。 家に怒鳴り込んでやろうと元来た道を歩いていたところに明智と出くわした、というのである。 「そもそも、はじめちゃんが1人で起きられるわけないのに。毎朝、私が起こしにいってあげてるんですよ? 私がいなかったら学校も遅刻ばっかりのくせして、なーにが『大丈夫だ』よ。ほんと、嫌になっちゃう」 周りの目も気にせず、美雪の勢いはとどまることを知らない。 明智は苦笑して聞いていたが、ふと頬杖をついて美雪を見つめてみた。 「――そんなに嫌なら、相手にしなければいいのに」 「えっ?」 思惑どおり、美雪の口が止まった――が、そんなことは顔には出さない。 「猫に小判、豚に真珠と言うべきか。君に金田一君はふさわしくありませんよ」 「そ、そんな……明智さんがそんなこと言うなんて……」 明智はつい、と手を伸ばして美雪の髪をひと房とった。 「例えば、私なんてどうでしょう?」 「え……ええっ!?」 「もちろん、今すぐどうこうというわけではありません。しかし、5年後。君は大学を卒業した立派な大人だ。そして、私はおそらく警視正。将来、警視庁長官夫人も夢ではありませんよ」 「で、でも」 「君は美しくて聡明だ。私たち警察官の仕事にも理解がある。――理想そのものなんですがね。いかがです? 一生、苦労はさせませんよ」 「こらーっ! 明智ぃーっ!」 「は、はじめちゃん!」 「お前、その手! 美雪の髪を触るなっ!」 「おや、やっとお出ましですか。……待ち合わせは、何時でしたっけ?」 「ぐ……っ、お、お前と待ち合わせた覚えなんかないっ。 美雪、お前、また明智にほいほいついてって! 待ち合わせ場所はここじゃねーだろ!」 「何てこと言うのよ! 元はと言えば、はじめちゃんが遅刻するのが悪いんじゃない!」 「ほらね、七瀬さん。金田一君は自分の非も認められないような矮小な人間なんですよ。こんな男と関わり合うのはお止めなさい」 「はじめちゃんは小さい人間なんかじゃありません!」 ガタン! 美雪が勢い良く立ち上がった。 「明智さんだって、今まで何回もはじめちゃんに助けられたじゃないですか! はじめちゃんが解決した事件の犯人達だって、きっとはじめちゃんに捕まって良かったって、真相を見つけてもらって良かったって思ってます! そりゃ、エッチで、だらしなくて、テストだって赤点ばっかりだけど、でも、事件が起きたときには明智さんなんかより頼りになるんだから!」 「美雪ぃ……お前、それ、全然フォローになってねえよ……」 ――っ。 明智は、我慢できずに吹き出した。 2人とも、思い通りの反応を示してくれる。 高2にもなってこんなことで大丈夫かと、逆に心配になってしまうほどだ。 「あの、お客様、大変申し上げにくいのですが、他のお客様のご迷惑になりますので……」 未だ興奮冷めやらない美雪と、それを宥めるはじめ、そして笑い続ける明智に、店の従業員がおずおずと声をかけた。 見ると、客だけではなく通行中の人々まで足を止めてこちらを見ている。 「ああ、すまない。出るよ。チェックを」 一礼して去っていく店員を見送って、明智は2人に向き直った。 「ここは払っておきます。行っていいですよ」 おそらく自分の分を出そうとしたのだろう、美雪が動いたのを制して、はじめが明智を睨む。 「お前……さっき言ってた事、本気かよ?」 明智はゆっくりと立ち上がった。 「さあ? どちらにせよ、選ぶのは七瀬さんですよ。愛想をつかされないように頑張ってくださいね。それでは失礼」 「かーっ、どこまでも嫌味なヤツ! 美雪、行こうぜ! ……何だよ、泣くことないだろぉ!」 ――おや、泣いてしまったか。 からかい過ぎたと、少し反省する。 最近、はじめ達をからかうのが楽しい。 美雪にプロポーズじみたことを言ったのも、はじめの走る姿を目の端に捉えたからだった。 私もトウが立ってきた、ということでしょうかね。 支払いを済ませ、カフェを出たところで携帯電話が鳴った。 「わかりました。すぐに行きます」 ――安心なさい、金田一君。当分、事件が私の恋人です。 明智は携帯電話を切ると、事件現場へと向かった。
□あとがき□ いまさらながらの「金田一少年の事件簿」。 ほんとに今になってハマって、ニコ動であるだけ観たのですが、みんな美雪ちゃんに厳しい厳しい(苦笑)。 美雪ちゃん、可愛いと思うんだけどなー? ファンサイトを探しても、明×金とか高×金とかばかりで、ノーマルがない(笑)。 というわけで、美雪ちゃんがモテてる(のか? これ…)ところを書いてみました。 明智警視にとって、美雪ちゃんはアウトオブ眼中(古!)だと思います。 上の話も、どちらかというとはじめちゃんをからかいたくて起こしたイタズラ。
あれ、ってことは、はじめ×美雪じゃなくて、明×金……?
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