Sweet sweet sweet
東京は一等地にあるマンションの最上階。 眼下に広がる夜景と極上のワイン。 そして側には最愛の恋人――贅沢すぎるこのシチュエーションで、神楽坂輝は仏頂面で頬杖をついていた。
1ヶ月以上にわたる海外出張から帰って、ようやく麦子と会えた今日。 食事は美味しかったし、いつもは道徳観念にうるさい麦子も今日はワイングラスを片手に上機嫌で夜景を見ている。 何が気に入らないのかというと――。 「……でね、また里子ちゃんと同じクラスになれたの! あとねー、隣の席は宮口君て言って、スポーツ推薦で入学したんだって。霊力試験なんてのがあったら、わたしも受験勉強しなくてすんだのになー。あ、霊感ある子も何人かいてね、武藤君と坂野君と田中君。今度、一緒に学校の七不思議探険するの。誠ちゃんも呼ぼうかと思ってて。テルちゃんも小学生のときに会ったことあるでしょ、山本誠君。学校は違うんだけど、家が近いからばったり会うことも多いの。3年見ない間に大きくなっちゃってね〜。 ねえ、テルちゃんてば、聞いてるっ?」 「あんまり」 テンションの高い麦子に対し、輝は不機嫌を隠そうともせずに答えた。
――なんっやねん。さっきから、里子ちゃん以外の登場人物、全部男やないか!
長いつき合いだ、麦子が男女問わず好かれる性格なのは知っている。 けれど、こうも男の名前ばかり連発されると、苛立ちも募るというものだ。 ……こんなことなら、学費を負担してでも都内の女子高に通わせるんやった……。 後悔しても後の祭。 ――いや、今からでも遅ない。麦子の親なら容易く説得できるやろ。やっかいなのは、里子ちゃんやな……ええい、何やったら里子ちゃんも転校させてまえ。2人分の学費くらい出したるわ! 脳裏に数校の候補を思い浮かべていると、いきなり麦子のどアップが目前にあった。 「わわっ! 何やいきなり! びっくりするやろ!」 輝の抗議も無視して、麦子は「よいしょ」などと言いながら輝の膝に横座りする。 「何よー。テルちゃんがいない間の麦子の話だよ? 興味ないのー?」 「……んなわけないやろ」 「ほんとにー?」 「ほんまや。会いたかったで、麦子」 そう言うと、麦子は笑顔を見せた。 「えへへー」と笑うと、グラスを置いて、輝に抱きつく。 「わたしも会いたかったよ、テルちゃんv」 ――ちゅっ。 ふいに柔らかい感触がして、輝は呆然と頬に手を当てた。 今のはまさか。でも――。 「へへ。テルちゃんだぁ」 そう言いながら、首に腕を回してキスの雨を降らせる。 「ちょ……こら、麦子」 なんやこれ……まさか、麦子に霊が憑いとる、とか……。 いつもなら有り得ない麦子の行動に、小さく悪魔祓い呪文を唱える――が。 麦子は無邪気な笑顔で輝を見上げている。 「と、いうことは……」 これが、麦子の本心なんか? 「麦子」 「ん?」 「ここ。忘れてへんか?」 唇を指すと、 「もー、テルちゃんは甘えん坊だなあ」 笑いながら、甘い甘い口づけをくれた。
――形勢逆転。 我慢ができなくなって、輝は麦子を押し倒した。 深いキスを堪能した後、輝の唇は麦子の耳へと向かう。 恥ずかしそうに小さく反応するのが、理性を失わせるほど可愛い。 「麦子……あたっ」 服の中に手を入れようとしたら、でこピンを食らった。 「ダメだよ、テルちゃん。そういうのはまだ早いっ。もっと大人になってからね」 もう充分、大人やろー。 輝は額をさすりながら反論しようとしたが、麦子がまんざらでもない様子なのでやめておいた。 とりあえず、「その気」はありそうやし。 年齢が伴ってない、というのなら、待つまでだ。 ――ま、えーか。麦子の気持ち知れただけで大収穫やわ。 ずいぶん我慢強くなったものだ、と思いながら、輝は麦子を抱きしめた。
□あとがき□ 「ジャンク×ジャングル」後「魔界紳士録」前、麦子が高校入学したくらいのイメージで。
しっかし、これ、15歳と16歳の言動とは思えない……(汗)。
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