花火
カラン、コロン。
涼しげな音が、闇の路地に響く。 「キレイだったねー、花火」 そう言う可奈の手では、出店で獲得した水風船がぱしゃぱしゃと音を立てている。 「そうですね」 今日は可奈が浴衣姿なので歩調がいつもよりゆっくりだ。
カラン、コロン。
「燈馬君も浴衣着てこれば良かったのに」 「自分じゃ着られませんから」 「じゃあ、甚平とか。明日、見に行こっか。あと1回くらい、どこかで花火かお祭やるでしょ。もう夏物セールも終盤だもんね〜。いいのあったら私ももう1枚買っちゃおうかなっ」 「そうですね」
カラン、コロン。
「何よぉ。行きたくないの?」 「……水原さん」 「んー?」 「……日本では、花火に慰霊や鎮魂の意味もあるそうですね」 「へー、そうなんだ。初めて聞いた」
想が、無言で足を止めた。
「燈馬君」 「な、何ひゅるんでふか」 「まーた、自分が関わらなければ、なんて変なこと考えてるんでしょ」 「……」 「燈馬君が関わったからこそ、救われた命だとか、解決した事件がたくさんあるじゃない? 私だって、燈馬君に助けてもらったことあるしさ」
可奈は想の頬から手を離し、今度は想の手を取って歩き始めた。 再び、下駄の音が辺りに響く。
「確かに嫌な事件や悲しい事件にもたくさん遭ったけど、それは無駄なことじゃないと思うよ。ましてや燈馬君のせいだなんて、絶対ない」
カラン、コロン。
「辛いなら、花火にはもう誘わないからさ。でも、燈馬君にはもっともっとたくさんの人が救えると思う。見て見ぬふりだけはしないで欲しいな」
可奈に引かれるだけだった想の手に力がこもった。
「どうかした?」 「いえ……来週、どこで花火があるか調べておきます」 「無理しなくていいんだよ?」
心配になって覗き込んだ想の顔は、笑っていた。
「無理なんかしていません。それよりも明日、水原さんの買い物は、僕の甚平を選んだ後にしてくださいね」 「えー」 「じゃないと、また水原さんの買い物だけで終わっちゃうじゃないですか!」 「買い物と話が長いのは、女の子の義務なんだよ」 「そんな話、聞いたことありません」 「ケチ」
お互い顔を見合わせて笑い合って。 前を向いて歩こう。 ――手は、つないだまま――。
□あとがき□ 今回は、少ーししっとり、お姉さんな可奈ちゃん。 過去を振り返ることも大切ですが、過去に捕らわれることなく。うん。
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