大つごもりデート


 大晦日。
 想と可奈は、都内のコンサートホールから他の客と共に外に出た。
 会場内の空調が少し暑かったせいもあって、頬が少し火照っている。
 可奈は大きく伸びをして肩をこきこきと鳴らすと、手に持っていたコートを着込んだ。
「やはり、第3楽章は少しうとうとしていましたね? 眠くなると言っておいたのに」
 想に顔を覗き込まれて、可奈は少しふくれた。
「ちょっとだけでしょー。いちいちチェックするのやめてよ」
「すみません」
 想は笑って答える。
「でもさ、第九って思ってた曲と違ってた。『ハーレルヤ ハーレルヤ♪』ってあれかと思ってた」
「それはヘンデルのメサイアですよ。クリスマスによく聞く曲です」
 そう言いながら、第九を口ずさんでいる。
 ……鼻歌混じりなので、特に害が及ぶほどではない。
 お気に入りの指揮者、お気に入りのオーケストラの演奏がよほど素晴らしかったようで、すこぶる機嫌が良い。
 曲の感想を言い合っている2人の間を、冷たい風が吹き抜けた。
「寒っ、早く帰ろう。お節作るの、手伝わなきゃ。燈馬君も来るでしょ?」
「お邪魔します。警部のお相手、ですね?」
「へへっ、バレたか。夜は、父さんとK−1観る予定なんだ。その後、年越し参りに行こう」
「はい」


 駅へと向かいながら、可奈はそっと想に呟いた。
「じゃあ、次はその『メサイア』っての聞きたい」
「わかりました」
「楽しみにしてるね」
 来年の約束にどちらともなく微笑み合って。
 2人は家路へと急いだ。


□あとがき□
 久々の更新!
 皆様、良いお年を & 今後ともよろしくお願い致します!

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