Song
年末になると、歌番組が増える。 ――珍しく、想の家のテレビからJ-POPが流れている。 もちろん、可奈がチャンネルを合わせたのだ。
「あ、燈馬君、この人だよ! 私がこの間コンサート行ったの」 想は、パソコンのモニターからテレビに視線を移した。 予想していたことだが、初めて見る顔だ。 「やっぱり知らないんだ。有名なのにな〜」 可奈はそう言って笑う。 テレビへ視線を戻して、テレビの人物と一緒になって口ずさみながら体全体でリズムを取る。
一緒に行く予定だった子が行けなくなったと誘われたコンサートで、可奈はその人物に「ハマった」らしい。 翌日の学校帰りにCDショップに寄り、延々と話を聞かされた。 ――だけでなく、新しいエピソードを仕入れては報告を受ける毎日だった。
曲が終わり、CMが入った。 可奈は再び想へ向き直る。 その顔は一言で表すなら「上機嫌」だ。 「やっぱカッコいいね〜。『大人のオトコ』って感じ。ああいうのを色っぽいって言うのかな」 同意を求められても困る。 想が返事しないのも意に介さず、可奈は続ける。 「あーんな声でラブソングとか歌われたら、女の子なら誰でも落ちちゃうよねっ」 ――なぜだろう。一瞬、キーを打つ手が止まった。 「僕は『オンナノコ』ではないので、わかりませんね」 可奈が、「おや」という顔をする。 「燈馬君? もしかして、ヤキモチ焼いたの?」 ――ヤキモチ? これが? 想が戸惑っていると、可奈はまたテレビへ向いてしまった。 CMが終わったのだ。
「プロにヤキモチ焼いてどーすんの。明日の放課後、カラオケ行こう」 「はい?」 脈絡が見えない。 「私は燈馬君の一生懸命歌う姿も好きだけどね。発声練習、続けてるんでしょ? 成果を見てあげるよ」
――なぜ、「見てあげる」なのだろう。 疑問に思ったが、それは口に出さず。
可奈が帰った後、風呂場で特訓しようと計画する想であった。
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