ワガママ姫さまの5つの命令


1.今日は限定スイーツの気分
2.雨の日にデートってありえないでしょ?
3.アタシが作ったんだから全部食べなきゃダメ
4.このままぎゅっとしてて
5.まだまだ全然足りないの

お題配布元:age様 



































1. 今日は限定スイーツの気分


「可奈ぁ。この間行った駅前の喫茶店で、限定のスイーツ出てるんだって! 行こっ!」
 ホームルーム終了後、梅宮と香坂が可奈に声をかけた。
「あー、ごめん。今日は無理」
「あ、もしかして、もう燈馬君と約束してるから、とか?」
「違うよっ! 今度の剣道部の試合の件で、対戦校が来んの! 遅くなりそうだからさ。明日じゃだめ?」
「限定スイーツは今日だけだよ。お店の開店記念だって」
「えーっ! そんなのないよ!」
「そんなの、私らに言われても……でも、ま、しょうがないから、2人で行こっか。梅宮」
「そうだね。香坂」
「裏切り者―!」
 半泣きの可奈を置いて、梅宮と香坂は教室を出て行った。


 さすがに30分ほど並んだが、梅宮と香坂はお目当ての限定スイーツを注文することができた。
「『裏切り者ー!』だって」
「しょっちゅう海外行ったり、どっちが裏切り者だっての」
「「ねー」」
「可奈にあって、私らにないものって、何だと思う?」
 梅宮がケーキを食べながら言えば。
「うーん……腕っ節、人間離れした運動能力、図太い神経、あ、料理は確かに可奈のが上手い」
 紅茶を飲みながら香坂が返す。
「「それでも私らのが女の子らしいよねえ〜」」
 なのに、なんで可奈にだけ彼氏がいるのか、と呟く2人の視線の先には想がいた。
 限定スイーツをテイクアウトするため、梅宮と香坂に同行したのだ。
 目的はもちろん、可奈に食べさせるため、である。
「ここまでしてもらって、彼氏じゃないって言い切るところが逆にすごいわ」
「燈馬君、この後また学校に戻るんだよね。尽くすねえ」
 そんなことを言い合っている2人に、想が近づいてきた。
「ありがとうございます。買えました」
 そう言って、ケーキ箱を持ち上げる。
「5種類あったでしょ? 何にしたの?」
「どれがいいかわからなかったので、全種類を1つずつ買いました。水原さんなら、5つくらい2日で食べるでしょうし」
「あ、そ……」
「じゃあ、また明日」
「ばいばい。可奈によろしく」
 店を出る想を、梅宮と香坂は手を振って見送った。

「可奈の分だけ買ったんだ……。しかも、明日の放課後も一緒に過ごすってことよね……」
「私、もう何も言う気起きなかったわ……」
「私も……」
 せっかくの限定スイーツを前にして、ため息しか出てこない2人であった。



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2.雨の日にデートってありえないでしょ?


「もうっ、つまんないったらつまんない!」
 本日の可奈嬢はすこぶる機嫌が悪い。
 想のマンションで、ほぼ可奈専用と化しているクッションをぼすぼすと叩きながら、想に訴えている。
「仕方がないじゃないですか」
 対する想は、パソコンから目を離すことなく答える。
「何で今日に限って雨なのよー!」
 本当なら、今日はコスモス畑に行く予定だった。
 朝は「曇ってて肌寒い」くらいの天気だったのが、可奈が想のマンションに着いた途端に土砂降りになってしまったのだ。
「来週でも間に合うかなあ。でもこんなに降ったら散っちゃうよねえ。今から止んだりしないかな。あああ」
「明後日まで雨の予報ですよ」
 ぼすっ。
 怒ったり悶絶したりする可奈を面白く眺めながら言ったら、クッションを投げつけられた。
「何冷静に言ってんのよ! 雨が降りそうってわかってるなら、何で昨日言ってくれなかったの!?」
 想はクッションを返しながら可奈の前に座る。
「水原さんなら、天気も変えられるかもしれないと思って」
 真顔で言ったら、可奈が吹き出した。
「そんなことできるわけないでしょ。どうしたの、らしくないこと言って」
「水原さんといたら、この世の中には道理がとおらないこともあるんだ、と思うようになりました」
「どういう意味なの、それ」
 可奈につられて、想も笑顔になった。
「ご機嫌が直ったところで、映画でも観に行きますか?」
「んー、もういいや。どうせ映画館も混んでるだろうし」
「じゃあ、将棋かチェスでもします? 教えますよ」
「燈馬君とやって勝てるわけないじゃん!」
「じゃあ……」
「いいよ。今日は帰る」
 立ち上がりかけた可奈の手を、思わずつかんだ。
 可奈が目を丸くして動きを止めたが、それよりも想の方が驚いていた。
「あ、その……もう少しいませんか? 雨もまだ降ってますし」
 一瞬の沈黙の後、なぜか可奈がにやりと笑った。
「……ふーん。雨が降ってるから?」
「雨が降ってるから、です」
「ま、そういうことにしといてもいいけど」
 ……どういう意味だろう。
 答えに窮していると、可奈が満面の笑みで言った。
「さて、何して遊ぶ?」


□一言ツッコミ
……なんか……「雨の日のデートもいいね」になっちゃった気が……。



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3.アタシが作ったんだから全部食べなきゃダメ


「さて、ではいただきまーすっ」
 想のマンション。
 今日も可奈が遊びに来ていて、昼食は可奈の手作りだ。
 メニューはお好み焼き。
 ソースの香ばしい匂いが食欲をそそる。
「……っ!?」
 お好み焼きを口に入れた想が、目を白黒させながら口元を手で押さえた。
「どうしたの?」
 可奈は、何か失敗したのかと一口食べてみる。
「美味しくできてるじゃない」
 不思議そうに言う可奈に、想は口の中身を何とか飲み下し、お茶を飲んでから皿を指差した。
「これ、何が入ってるんですか!?」
「何って……、キャベツと豚肉と納豆と……」
「納豆っ!?」
 いつもの想らしくないかん高い声に、今度は可奈が驚く。
「あれ、もしかして、納豆嫌い?」
「匂いがどうしてもダメで……。お好み焼きにも入れるものなんですか……?」
「意外に何でも合うんだよ。オムレツ、サラダ、パスタ、ピザ……」
 指折り数える可奈を、想は信じられない、といった顔で見つめる。
「何よ、その目は。発酵食品は体にいいんだよ」
「それはわかっているんですが……納豆はちょっと……」
「まさか、私が作ったものを残す、なんて言わないよね? そんなことしたら、もう燈馬君のご飯なんて二度と作らないからね?」
 可奈の笑顔が怖い。
「う……。い、いただきます……」
「はいどうぞ。好き嫌いは克服しなきゃね♪」


□一言ツッコミ
オフィシャルでは燈馬君が納豆を嫌い、という描写はありません。



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4.このままぎゅっとしてて


 学校からの帰り道。
 可奈と想はいつものように並んで歩いていた。
 もうすっかり陽が落ちて、空には星が瞬いている。
「寒いねえ……」
 可奈が口を開いた。
 寒さで声も震えるほどだ。
「今、冬型の気圧配置が日本中を覆っていますから。まあ、明日には緩むと思いますよ……あれ、水原さん、いつもしている手袋はどうしたんですか?」
 可奈がはあっと両手に息を吹きかけたのを見て、想が聞く。
「今頃気づいたの? 朝、慌ててて忘れたの!」
「そうでしたか」
「あんたね、もうちょっと言い方ってもんがあるでしょ……っ!?」
 そっけない返事に抗議しようとした可奈の語尾が消えた。
 ――想が、可奈の手を包んだのだ。
「……何やってんの?」
「手が冷たそうだな、と思って。ほら、やっぱりこんなに冷えて。もう感覚ないでしょう。何で言わないんですか」
「何でって……」
 まさか、手を温めてくれるなんて思ってもなかったから、なんて言えるはずもなく。
 照れ臭いのもあって、代わりに別のことを言った。
「こ、こんな両手つないでたら歩けないじゃん。早く帰ろうよ、寒いし」
「そうですね。マンションに寄って行きますか? 温まってから帰った方が良さそうですし。手袋もお貸ししますよ」
「……うん」
 可奈が素直に頷くのを見て、想が手を離す――その前に、可奈が想の手を握った。
「水原さん?」
「あ、えーっと、その――何も、両方離すことないでしょ? 片手なら何の支障もなく歩けるわけだし……って、嫌ならいいけどっ!」
 一転して、可奈は想の手を振りほどこうとした。
 が、今度は想が可奈の手をぎゅっと握り返してニッコリと笑う。
「そうですね」

 すでに可奈の体温はこれ以上ないほどに上昇していて、想のマンションに寄る必要もないように思えるけれど。
 何も言わずに想に手をひかれたまま歩き始めた。

 ――この鼓動がバレてませんように、と祈りながら。


□一言ツッコミ
でも、当然バレてます(笑)。



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5.まだまだ全然足りないの


 想は信じられない思いで目の前に座る少女を見つめた。
 少女は美味しそうにリゾットを頬張っている。
 それは、よくある微笑ましい光景だろう。
 しかし。
 彼女の傍らには、食べ終えて重ねた皿がうず高く重ねられているのだ。


 3月13日の放課後。
隣を歩いていた可奈が突然立ち止まった。
「……燈馬君、私に何か言うことないの?」
「はい?」
 午後から笑顔がないな、と思ってはいたのだが、何か怒らせるようなことをしただろうか。
 必死で考えるが、思い当たらない。
「明日は何の日!?」
「明日、ですか? 3月14日……1953年に吉田内閣解散、俗に言う『バカヤロー解散』……違いますよね。あ、ジョヴァンニ・スキアパレッリの生まれた日」
「誰それ」
「天文学者です。と、言うことは、それも違うんですね」
 わけがわからない想に、可奈はますますムクれていく。
「そんな人知らないよ! 違うでしょ、明日はホワイトデーでしょう!?」
「ホワイトデー、って何ですか?」
 想は、可奈の顎が外れやしないかと心配した。
 それくらい、あんぐりと口を開けたのだ。
「……信じらんない。何でバレンタインデーを知っててホワイトデーを知らないのよ。
 ホワイトデーは、バレンタインデーのお返しをする日なの」
「そうなんですか。そんな日が」
 想は驚いた。
 日本でバレンタインデーといえば女性から男性にチョコを贈る日と聞いていたが、そのお返しの日が用意されていたとは。
 欧米では、男女関係なしにバレンタインデー当日に贈り物をし合うのだが。
「それはすみませんでした。ええっと、お返しはどうしたらいいんですか?」
 素直に謝ったら、少しは機嫌が直ったのだろうか、可奈の表情が変わった。
「チョコをもらった男の子は、女の子の好きなものを好きなだけ、何でもご馳走するんだよ」
「『何でも』ですか」
「やだ、そんな高いもの言ったりしないから心配しないで。ブッフェで手を打ったげる」
「わかりました。それが明日なんですね? 何時にしますか?」
「11時に、マンションに行くよ」
「わかりました」


 そして、ホワイトデー当日。
 ホテルのランチブッフェで、制限の2時間、ほぼ全種類の料理を平らげた可奈は満足そうに手を合わせた。
「ご馳走様でした。美味しかった!」
「それは良かったです。さて、これからどうしましょうか。どこか行きたいところ、ありますか?」
 会計を済ませ、レストランを出ながら想が言うと、可奈がキョトンとした。
「今から、デザートブッフェだよ」
「まだ食べるんですか!?」
「何よ、失礼ね。女の子にとって甘いものは別腹なの! さ、カフェコーナーへ行くよ」


 想は信じられない思いで目の前に座る少女を見つめた。
 少女は美味しそうにケーキを頬張っている。
 それは、よくある微笑ましい光景だろう。
 しかし。
 彼女の傍らには、食べ終えて重ねた皿がうず高く重ねられているのだ。


「水原さん……まさかとは思いますが、今日の夕食は食べるんですか?」
「ん? 食べるよ。当たり前じゃん。育ち盛りだからね!」


□一言ツッコミ
 天然燈馬君と、それをいいことに希望のWDをおねだりする可奈ちゃん(笑)。



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