Word−可奈編−
「水原警部は理由なく人を疑いません」 ――燈馬君からこの言葉を聞くのは2度目だ。 燈馬君はいつも、父さんと、そして私を助けてくれる。
私の父さんは刑事だ。 それは誇りに思っているけれど、小さい頃はずいぶん嫌味を言われたっけな。 ちょっとケンカすると「刑事の娘が暴力ふるっていいのか」とか、事件が報道されると「早く犯人捕まえろ」とかさ。 ま、そんなことを言われて黙っている性格でもないんだけど。
燈馬君と出会ってから、父さんの仕事が身近になった。 今までは、どんな事件に関わっているとか少し話を聞くだけだったのが、実際に事件に関わるようにもなったりして。 燈馬君はバカだけど、途方もなく頭がいい。 父さんが犯人を間違えたときや捜査に行き詰ったとき、何度も助けてもらった。 他の人だったら「警察は何やってんだ」と言われても仕方がないことなのに、燈馬君からそんな言葉は聞いたことがない。 逆に、父さんや私を信用してくれていると思う。 それが、何だかとても嬉しい。
HRで、進路希望の用紙が配られた。 それをもとに、三者面談を行うという。 進路か……まだ具体的に決めてはいないけど、何となく、刑事とか体育の先生とか向いてるのかな、なんて思ったりする。 大学に進学することになるだろうけど、私の学力じゃ受験が大変なのは目に見えているから、スポーツ推薦が取れたらいいな。 部活、頑張らなきゃな。 ――そういえば、燈馬君は、高校を卒業したらどうするんだろう? ……アメリカに帰っちゃうのかな……?
放課後。 燈馬君に進路はどうするのか聞いてみた。 すると、まだ決めてないとの返事。 じゃあ、まだアメリカに帰ると決まったわけじゃないんだ。良かった。 ――ん? 良かった? 何で? 自分の中の不思議な感情に驚いていると、燈馬君から進路をどうするのか聞かれた。 刑事か先生を考えていると答えて――そうだ! 燈馬君も先生になったらいいじゃん! そう言うと、燈馬君は目を真ん丸にした。 そんなにびっくりすることかな? 向いてると思うんだけど。 文句言ってばっかりの私にもちゃんと勉強教えてくれるし、難しい話もわかりやすいように説明してくれるし。 わからないことの方が多いけど、それは私の頭の容量の問題だと思う――って、何を言わせるのよ。 そしたら、教員免許がないとか何とか言ってる。 燈馬君は勉強はできるのに、バカだと思うのはこういうところだ。 なければ取ればいいでしょ。 日本の大学に進学したら、卒業しても日本に留まることが確定するわけだし。 一緒の大学は無理だろうけどね。 スポーツ推薦を考えていると言った私に、返ってきた答えは 「推薦だと、テストが赤点でも大丈夫なんですか?」 ――ドコッ! ――燈馬君のおバカなところがもう1つ。一言多い!
その日、燈馬君を夕食に招待した。 変な遠慮をするから、代わりに宿題を教えてもらうことにして。 ほんっとーに教えてくれるだけで、やってくれないところがケチなんだけどね! それ以来、テスト期間以外にも勉強を教えてもらうことが増えた。 場所は、私の家だったり、燈馬くんのマンションだったり、図書館だったり。 成績も少しずつだけど上がってきた。 やっぱり、先生向いてるよ! 今度、進路の話が出たら、もう1度勧めてみよう。 そんなことを思いながら、宿題のノートを閉じた。
□あとがき□ 可奈ちゃん大丈夫、あなたが日本にいる限り、燈馬君は日本を出ません!(注:あくまでもはるき設定です)
いつの間にか−想編−の可奈ちゃんverに…「対になってるけど違う話」を書いていたはずなのにな。
|