「燈馬、お前、ずっと水原の後にくっついてんな」
放課後。
帰る準備をしているところへ、声をかけられた。
顔を上げると、クラスメイトの青山が立っていた。
「知ってるか? そういうの、日本では『金魚のフン』て言うんだぜ」
想が無言でいると、青山はどんどん話を続ける。
「体力バカの水原と天才君なんてお似合いじゃねえか。渚幸代のストーカーも水原が追い払ったんだろ? やっぱ勉強ばっかしてるヤツは弱っちいねえ」
「……」
「何とか言えよ」
「水原さんを好きなら好きと、本人に言わないとわかりませんよ」
途端、青山の顔にさっと朱が差した。
「な……っ! ばっかじゃねえの、何言ってんの、お前! 何で俺があんな……!」
「お待たせー、燈馬君。帰ろっ。……どうしたの?」
用を済ませた可奈が戻ってきた。
「……何でもねえよ」
青山はそう言って、周りの椅子を蹴飛ばしながら去っていった。
「ちょっと、椅子戻していきなさいよ! ……何あれ。何で荒れてんの?」
「さあ。何でしょうね。さ、行きましょう。今日も笠山刑事が待ってますよ」
「ええーっ! もういいじゃん、帰りたいよ!」
「……呼ばれないときは首突っ込むくせに」
「何か言った?」
「いえ、別に。さ、行きましょう」
「燈馬君さあ、妙にやる気じゃない?」
「そうですか?」
想は、背中に視線を感じながら可奈と教室を出た。
可奈が彼の恋心に気づくのはいつの日か。
……想には関係のないことのはずなのに、胸がざわめくのを感じていた。 |