悪いのは金丸。
それはわかってる。
けど、ヤツの言うとおり、私が辛島君や新田君のことを忘れていたのも事実だ。
はーっ。
とっても大事なものくれたのに。なんでこんなにバカなんだろう?
目頭がじんわりと熱くなる。
けど、泣いちゃだめだ。
泣く権利なんて、ない。
まばたきと共に落ちる涙――目を見開いて我慢していると、いきなり目の前が壁にふさがれた。
いや、この感触って……ええぇぇっ!?
「と、燈馬君……?」
顔を上げると、いつもよりも、燈馬君の顔が近い。
……これってやっぱり……抱きしめられちゃってるって状況だよね、勘違いじゃないよね!?
燈馬君は私のパニックをよそに、親指で目尻を拭ってくる。
「昔と同じ水原さんでいてくれてありがとうって、きっと、そう思ってますよ。僕はそう思います」
燈馬君の笑顔を見たら、涙がボロボロとこぼれてきて止まらなくなった。
どれくらいそうしていたのか――気がついたら、燈馬君の鼓動を全身で感じていた。
――あー、気持ちいー……。
「落ち着きましたか?」
「え? あっ! ごごごごゴメンっ!」
声をかけられて、我に返った。
あちゃー、燈馬君の上着、明らかに色が変わってる部分が……。
「上着、濡らしちゃったね。ゴメン」
「すぐに乾きます。気にしないでください」
燈馬君は私から離れて、カバンを手に取った。
「じゃあ、帰りますね」
「何で! まだいいじゃん」
「いえ、そろそろ警部も帰るでしょうし」
「父さん? 今日は夜勤だから帰らないよ」
「そ……れは、ますます、失礼します」
「何? 父さんに用事があったの?」
「違います。とにかく、今日は帰ります」
んー? 急に燈馬君の挙動が不審。どうしたんだろ?
「また明日」
……そうだね。まあいっか。明日も会えるもんね。
「うん。玄関まで送るよ」
「ありがとうございます」
門まで燈馬君を送りながら、まだお礼を言ってなかったことを思い出した。
「いろいろありがとね」
「いえ」
「じゃ、また明日。学校でね」
「はい。お邪魔しました」
燈馬君は、一礼して帰っていく。
「カシャ」
手でファインダーを作って、口でシャッターを切った。
空(くう)に切り取った後姿を、大事に胸にしまい込む。
――一生、忘れることのないように。
□あとがき□
燈馬君のマンションから可奈ちゃん家に行くことが増えたのは、燈馬君が2人きりでいることに自信がなくなったんじゃないか!? という妄想から。
ドラマのセリフはうろ覚えです(いつもか)。
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